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神戸市西区で生じた6歳男児死亡事件に思うこと

はじめに

 今年の622日、神戸市西区の自宅付近の草むらで、6歳男児の遺体が発見された。背中には多数のあざが見られ、養育者から激しい暴行を受けたとみられている。

 この事件は西区役所(要保護児童対策地域協議会<要対協>)と神戸市児童相談所(児相)が関与していたケースで、その関わりや判断が適切であったのかどうか検証するための委員会が開かれることになっている。ケースの詳細な背景やその支援プロセスの課題等については、検証委員会の報告で明らかにされると思われるが、報道による限られた情報を見るだけでも複数の課題がうかがえるので、虐待防止に関わっていくつかの提起をしておきたい。

 

経緯(報道情報)

 2023年2月~4月  本児が保育園を休みがちになる。この頃叔父が同居するようになったとみられる。

                                 3月以降祖母が自宅内で断続的に監禁される。

          4月20日  本児が登園、職員があざを発見。翌21日が最後の通園となる。

      4月24日  保育園から区に「肩と尻にあざがある」と連絡。同日西区役所が実務者会議を開いて

                             「要保護児童」と認定。職員が自宅で母と祖母に面談。2人は「心当たりがないと」と

                                答える。本児には会えず。

     5月1日  母から「育てにくさがあり一時保護して欲しい。祖母に対して暴力をふるうことがあ

                               る」と申し出があり、職員が家庭訪問。職員が本児の肩のあざを確認すると消えてお

                               り、尻や服の下は確認せず。本児との接触はこれが最初で最後となる。

     5月2日  区から連絡を受けた児相が一時保護を決めるが、母、本児来所せず。母と電話つな

                              らず。自宅に電話すると祖母が出て「子どもが嫌がっていると」と回答。

     5月8、9日 児相から母に電話するもつながらず。9日に祖母と面談できたが、「家族で見るので

                               一時保護は不要」と回答。ここで児相の対応は一旦終了(ケースは児相に送致されてお

                               らず、対応は区が担っていたため)。            

     5月19日  2回目の実務者会議。本児と接触できていないことについては、後の会見で「自宅だ

                               と子どもが興奮するので通園した際に会うことなら大丈夫と家族に言われたので通園

                                の機会をうかがっていた」と市。

     6月1日   西区の職員が家庭訪問し、祖母と面談。一時保護については再度不要と話す。一家へ

                              の接触はこれが最後となる。

     6月19、20日  祖母が家族から暴行を受け、垂水区内で保護される。

     6月22日  警察が祖母への監禁と傷害の疑いで家族らを逮捕。自宅付近の草むらで本児の遺体

                              が発見される。

   

気になるいくつかの課題点

課題1 あざ等の証拠保全

420日に保育園職員があざを発見しているが、保育園は4月24 日に区に連絡を入れている。そして、区の職員が同日家庭訪問したが、母と祖母に「心当たりはない」とかわされ、本児には会えていない。母から「一時保護して欲しい」との要請を受けて5月1日の家庭訪問の際は、肩のあざは消え尻や服の下は確認せずとなっている。なお、本児は4月21日以降登園していない。市は後の会見で「一時保護が決まったのでその際に身体や発育の確認をする予定だった」「あざも確認出来ておらず、職権での保護は難しい状況だった」と語っている。

コメント 

あざ等を発見した現場は、まずは写真撮影等の方法(状況からどうしても写真撮影が難しいときはスケッチでもよい)で証拠保全することが虐待対応の基本になる。のちに確認しようとしてもあざが薄れたり、子どもとの接触がうまくいかなくなれば、証拠は何もないという状況に陥ってしまい、確認もできていないのに職権保護は難しいということになりかねない。行政は虐待予防にとって重要なこの初期対応を、子どもと日々接触する現場に早急に周知を図る必要がある。

 

課題2 ニーズが消えた後の児相、区による安全確認作業の協議と方法の検討

51日、母から自発的な一時保護の要請があり、区も児相もそのタイミングを利用しようと考えていたが、翌日母子は来所せず、祖母は子どもが嫌がっているとしてキャンセルになっている(後の会見で「今回は同意を得て一時保護し、行動観察を経て家庭での養育に戻す流れを想定していた」と児相)。これにより児相の役割は終了し、以降子どもや家族へのアプローチはうまくいかないまま立ち消えになってしまっている。

コメント 

このケースの最も重要なポイントどころである。一時保護のニーズは消えてしまったが、安全確認、また子どもを取り巻く状況のより積極的な調査、確認作業が必要とされた場面と言ってよい。ケースの流れを見れば、本児は2月頃より保育園を休みがちになり、421日以降全く登園しなくなっている。そして、職員によるあざの発見は、420日である。

一方この頃叔父が同居を始めたという情報もつかんでいる。また、51日には一時的とは言え養育困難の訴えがなされている。これらの流れを見れば、単にニーズが消えたからそれで終わりというわけにはいかない。そうであるなら区は児相と、この事実を早急に協議し、子どもの周辺で起こっている良くない兆候の実態をより詳しく調査する姿勢が必要になる。場合によれば民生児童委員さんの協力を得て近隣情報の収集、家庭訪問による安全確認の実施、協力が得られないようであれば、警察の協力を得て立入調査の実施等が視野に入ってくる。児相はケースが送致されていないから役割が終わったというのではなく、区への技術指導の役割を担っている。双方がそれぞれ有する役割を積極的に提供しあい、協力しあって事態を掘り下げようとする姿勢があれば、結果は大きく異なっていた可能性がある。

 

課題3 地域周辺からなされない虐待通報

後の報道によれば、2階のベランダから本児が助けを求める姿、夜、家の前で本児が泣いている姿、家の中で大人の怒鳴り声や本児の謝る声等々、何らかの虐待を疑う近隣情報が報じられている。しかし、今回住民からの189等への通報は一切なされていない。

コメント

仮に一回でも通報がなされていれば、児相や区の虐待危惧意識はより高まっていたと考えられる。虐待を危惧していた地域住民がいたとしたら、匿名でもよいので積極的に通報の行動をとって欲しい。その行動が一人の子どもの救済につながることも十分にあり得る。行政が意識して、折に触れて地域住民への啓発活動を継続して行うことを心掛けていかなければならない。また、当協会はじめ民間団体もさらなる啓発活動を展開していく必要がある。

 

            認定NPO法人 児童虐待防止協会理事長 津崎哲郎

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