
7月11日(土)、18日(土)、25日(土)の3日間にわたり、「2026年度 子ども虐待 基礎講座」(全7講座)を開催しました。
2日目となる7月18日(土)は、中村善彦法律事務所 弁護士の中村善彦氏を講師にお迎えし、「子ども虐待についての法的仕組み」をテーマにご講演いただきました。
子ども虐待への対応について、通告から情報収集、関係機関との連携、親権に至るまで、実際の支援の流れに沿いながら幅広くお話しいただきました。

まずはじめに、こども家庭庁が毎年公表している、子ども虐待による死亡や大けがなどの重大事態に関する検証報告についてお話しいただきました。
こども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第21次報告)
https://www.cfa.go.jp/councils/shingikai/gyakutai_boushi/hogojirei/21-houkoku
報告によると、心中以外の虐待で亡くなった子どものうち、0歳児が68.8%、3歳未満が79.2%を占めており、0歳児や3歳未満の子どものリスクが非常に高い傾向は、ここ数年続いていることが説明されました。
また、死亡事例全体のうち、児童相談所や市町村が関与していた事例は4割弱で、半数以上はどちらも関与していなかったことが報告されています。
中村氏は、関与していた家庭については、その時々で適切な対応ができていたのかを振り返る必要があり、関与していなかった家庭についても、支援につながる機会をどこかで見落としていなかったかを調査する必要があるとお話しされました。



次に、子ども虐待の予防・防止に関わる基本的な法律についてお話しいただきました。
子ども虐待に関わる法律には、児童虐待防止法や児童福祉法があります。
児童福祉法には「児童の権利に関する条約の精神にのっとり」と定められており、子どもの権利を尊重することが基本となっています。
子どもの権利条約は1989年に国連で採択され、日本も批准していることから、その理念や内容を国内においても実現していく必要があると説明されました。


児童虐待の発見、通告の重要性についてもお話しいただきました。
児童虐待防止法では、学校や施設の職員、弁護士、医師など、子どもに接する機会のある職種には、虐待の早期発見に努め、通告することが義務付けられています。
通告の際は、虐待であるという確証や証明は必要ありません。
早期発見のためには、虐待の兆候を知っておくことが重要で、それは、けがやあざなど、目に見えるものだけでなく、普段の関わりの中で感じたちょっとした子どもの変化から、暴力的な行動、家出、性的な逸脱行動など「問題行動」まで、様々だそうです。
そのため、表面的な行動だけを見るのではなく、その背景を見ようとすることが大切だとお話しされました。

虐待が起きる家庭では、親の精神疾患や経済的な問題、DVなど、虐待につながるさまざまな困りごとを抱えているケースが多くあります。
通告をきっかけに、それぞれの課題に対応できる関係機関が得意分野を持ち寄り、家庭や子どもへの支援につなげていきます。
そのため、通告は「告げ口」ではなく、必要な支援につなげるための「連携のきっかけ」であると、中村氏はお話しされました。

虐待対応において、最も重要なポイントの一つとして、中村氏が強調されていたのが「情報収集」でした。
一つひとつの出来事だけを見ると、それほど危険性が高くないように見えても、別の情報と組み合わせることで、危険度が高まることがあります。
逆に、一つの情報が欠けることで、虐待のリスクを正しく評価できないこともあるそうです。
また、情報には「鮮度」があるため、心配なことがあれば、その場でタイムリーに支援へつなげることが重要だともお話しされました。

講義の終わりには、親権についてのお話もありました。
親権は、身の上の世話や生活習慣などに関わる「身上監護」と、お金を管理する「財産管理」に分けられます。
親権というと「親の権利」というイメージがありますが、親が自由に子どものことを決められるものではなく、あくまで「子どもの利益のために」行使しなければならないと語られました。
そのため、「親が言っているから仕方がない」と考えるのではなく、子どもの利益のためにどのような対応が最善なのかを、周囲の関係者と協議することが大切だと話されました。
また、「子連れ別居」についても触れられました。
もう一方の親の了解を得ずに子どもを連れて別居することは、親権者が持つ「居所指定権」を侵害する可能性があるとのことでした。
ただし、DVや虐待など、急迫の事情がある場合には、一方の親が単独で親権を行使し、子どもを連れて別居できる場合があり、これは共同親権の場合でも同様であると説明されました。



お話を通して、私たちがどのような立場であっても、子どもの権利を守る大人の一人として、社会を構成する一員として、気になることがあれば、189などに相談し、必要な支援につなげていくことの重要性を改めて感じました。
また、以前は「子どもを死なせてはいけない」という観点から、危険性の高い家庭にはしっかりと介入していくことが重視されていたそうですが、現在は、介入が必要な状況になる前に何ができるのか、という方向で法改正が進められているというお話が印象的でした。
「家庭養育優先原則」をはじめ、子どもの安全や権利を守るだけでなく、保護者を支え、家庭そのものを支援していこうという視点に変化していることを知り、少しずつ、よりよい社会に向かっているのではないかと信じたい気持ちになりました。

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