7月11日(土)、18日(土)、25日(土)の3日間にわたり、「2026年度 子ども虐待 基礎講座」(全7講座)を開催しました。
初日の7月11日(土)は、兵庫県こころのケアセンター 児童精神科医の三宅和佳子氏を講師にお迎えし、「子ども虐待とトラウマ」をテーマにご講演いただきました。
講義では、子ども虐待が子どもの心や発達に及ぼす影響、トラウマの基礎知識、そしてトラウマを抱えた子どもへの対応について学びました。
児童精神科医。小児科、精神科病院児童外来・病棟、精神保健福祉センター、児童相談所、子ども病院児童精神科外来などを経て、現在は兵庫県こころのケアセンター 上席研究主幹 兼 診療所長として、トラウマを受けた子どもの専門治療と研究などに取り組まれています。

まずはじめに、子どもへの虐待が学校の先生や周囲の大人によって発見され、虐待を受けない環境へと改善されると、そのケースは解決したと思われることがあると話されました。
しかし、虐待によって傷ついた子どもの心は、虐待が終われば自然に癒えるものではありません。見過ごされてしまうことで、落ち着きのなさや集中力の低下、不登校など、日常生活の中でさまざまな困りごとが現れ、重症化するとリストカットや市販薬依存などにつながることがあると説明されました。
また、心の傷は身体の傷とは異なり、目に見えません。だからこそ、虐待を受けた子どもに関わる大人がトラウマへの理解を持って向き合わなければ、そのまま放置され、一生重い荷物を抱えながら、思うように人生を歩めなくなることがあると語られました。


次に、トラウマとはどのようなものなのかについてお話がありました。
トラウマとは、災害や事件、虐待や性暴力などによって、それまで社会や人に抱いていた安心感や信頼感が大きく揺らいでしまうような出来事を指します。
トラウマを経験すると、自分の心をコントロールすることが難しくなり、日常生活に支障をきたします。その結果、前述したような落ち着きのなさや集中力の低下、不登校など、さまざまな困りごととして表れることがあると話されました。
また、三宅氏は、子どもにトラウマを説明する際、「心に怪我をしたんだよ」と伝えていることも紹介されました。

急性ストレス反応とは、トラウマとなる出来事の直後に起こる反応で、トラウマの記憶を必死に「消化」しようとする自然な反応だと説明されました。
危険を察知すると脳の扁桃体(へんとうたい)が興奮し、「戦う」「逃げる」「固まる」といった反応が起こります。しかし、安心できる場所でゆっくり過ごしたり、あたたかい布団で十分に休んだり、周囲のサポートを受けたりすることで、「もう大丈夫」と脳にブレーキがかかり、扁桃体の興奮は少しずつ落ち着いていくと話されました。

一方で、PTSDとは、本来であれば危険が去ると落ち着くはずの脳の警戒反応がうまく収まらず、常に警戒態勢を取り続けてしまう状態のことだと説明されました。
その症状には、侵入症状、回避症状、認知と気分の陰性変化、覚醒度の亢進などがあり、生活への影響も大きく、仕事や家庭生活に支障をきたすこともあると話されました。

子どもは大人とは異なり、心も身体も発達の途中にあります。そのため、虐待による影響はトラウマ症状だけでなく、発達やアタッチメント(愛着形成)にも及ぶことが大きな特徴であると説明されました。
また、虐待を受けた子どもは、人に助けを求める力や、自分の感情をコントロールする力が育ちにくくなると言われているそうです。その影響は生涯を通じて心身の健康や幸せに及ぶことがある一方で、適切な治療や支援によって回復が期待できることも紹介されました。
そのため、子どもに関わる大人が正しい知識を持ち、適切に対応することの重要性についても話されました。



最後に、支援者や子どもに関わる大人がどのように対応すればよいのかについて、トラウマインフォームドケアの考え方をもとにお話がありました。
まず大切なのは、「やりにくい子」「問題行動のある子」と捉えるのではなく、「もしかしたら、この子は虐待などのトラウマを抱えているのかもしれない」と想像することだと話されました。
そうすることで、一方的に叱ったりルールを厳しくしたりするのではなく、「何がしんどいの?」と子どもの気持ちに寄り添い、話を聞くなど、別の関わり方を考えることができます。
目に見えないトラウマという心の傷に気づき、子どもと一緒にその傷を理解し、どのように支えていけるかを考えることが大切だと話されました。


今回のお話の中で、最も印象に残ったのは、千葉県野田市で起きた児童虐待死亡事例でした。
「父から暴力を受けています」という子どものSOSをきっかけに一時保護されましたが、約1か月後に解除されました。しかし、児童精神科医による診断では、暴力だけでなく性的虐待も確認され、死ぬかもしれないという恐怖によるPTSD症状も認められていたそうです。
それにもかかわらず、一時保護が解除されたことについて、三宅氏は「安心・安全な環境」が本当に確保されていたのかという視点の重要性を示されました。
子どもに関わる大人は、目に見える状況だけで判断するのではなく、トラウマに対する正しい知識を持ち、見えない心の傷にも目を向けることが大切です。そのような視点を持って子どもを支えることこそ、本当の虐待対応につながるのだということを学びました。
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